第一話 ことのはじまり
On 2019/8/9 Fri.
私たちはいつものように、新宿で酒を飲んでいた。
先週に出かけた岩手旅行の精算をするという理由のために。
この精算というやつは面倒の先延ばしである。
旅行先にいる時は、チケットや食事代は全員分まとめて一人が払うのが楽だからそうするが、旅先で気を取られているうちに誰がいくら払ったのかなどすっかり忘れてしまう。
だから帰ってきてから必死に思い出すのが面倒だし、1600円の支払いのうち1000円札があるという理由で1000円だけ払っていたりすると始末が悪い。
3人のうち2人だけが欲しくて購入したものなどもある。覚えていない上に複雑なのだ。海外旅行など考えてみて欲しい。外貨が絡むとさらに厄介だ。
そんなわけで、酒がまわってすっかり精算ができなくなった私たちは、精算を諦めていつものように水タバコを嗜みにシーシャ屋に向かった。
シーシャというのは不思議なものだ。
その場で話したことは、他の場所で話すより良く響く。
口説き方は大変魅力を増すし、人生の悩みと愚痴は哲学的な問答に姿を変える。そして、日中会社にいる時は全く働かなかった創造力が突如目を覚ますのである。
その日もそんな夜だった。
私たちのうち一人が、LINEBotを開発した話をし始めた。ただの自分の発言をおうむ返しするような単純なものである。
「精算をやってくれるLINEBotはいないかなぁ」と。
ないなら作ってみればよいのではないか。これでも我々はいわゆるシステムエンジニアの端くれである。LINEなら画面部分の開発は不要で、サーバー側のロジックだけ作ればよいそうだ。
それなら、最近流行りのPythonなる言語で開発してみたい。LINEAPIというかっこいいものを使ったと言いたい。
偶然にも、その日は三連休の前の金曜日。連休の間にそんな素敵なLINEBotもとい精算してくれるお友達ができたら最高ではないか。よくあるシリコンバレーのベンチャーなんかもガレージでこそこそ開発していたというわけではないか。夢のある話だ。
こうして我々の開発は始まったのであった。